主にSGL第III章の内容。
目次
- 復習:位相空間上の層
- Grothendieck coverage
- Basis
- 景の例
- 景上の層
復習:位相空間上の層
位相空間X上の層(sheaf)とは、前層F:O(X)op→Setであって、任意の開部分集合Uとその開被覆{Ui}iについて、次の図式がSetにおけるイコライザになるものであった。
ここで、e,p,qは
e(s)p({si}i)q({si}i)=def{s↾Ui}i=def{si↾Ui∩Uj}i,j=def{sj↾Ui∩Uj}i,j
と定義される。
Grothendieck coverage
集合の宇宙Uについて、U-smallな圏Cが与えられたとする。米田埋め込みをy:C→SetCopと書く。対象a上のsieve Sとは、SetCopにおけるyaの部分対象のことである。あるいは、a上のsieve Sは、「aへの射の集合であって、任意の(f:b→a)∈Sとg:c→bについてfg∈Sとなるもの」とも言える。本稿では前層としてのsieveと集合としてのsieve、どちらの見方も自由にする。射h:b→aが与えられたとき、
h∗(S)=def{g∣cod(g)=b and hg∈S}
は対象b上のsieveになる。
定義(Grothendieck coverage)
C上のGrothendieck coverageとは、各対象aに対して、a上のsieveの集まりを与える写像Jであって、以下の3つの条件を満たすものである。
- 任意の対象aについて、maximal sieve ta={f∣cod(f)=a}がJ(a)の要素になる。
- Stability公理:任意の対象a,bと射h:b→a、各S∈J(a)について、h∗(S)∈J(b)となる。
- Transitivity公理:任意の対象aとS∈J(a)、さらにa上の任意のsieve Rが与えられたとする。「任意のh∈Sについてh∗(R)∈J(dom(h))」ならば、R∈J(a)となる。
Grothendieck coverageの定義より、S∈J(a)かつsieve RがS⊆Rを満たすならば、R∈J(a)が成り立つ:transitivity公理より、「任意のh∈Sについてh∗(R)∈J(dom(h))」を示せばよい。h∈Sが与えられたとき、iddom(h)∈h∗(S)となる。したがって、h∗(S)はdom(h)上のmaximal sieveとなる。h∗(S)⊆h∗(R)なので、h∗(R)もまたmaximal sieveであり、h∗(R)∈J(dom(h))となる。
命題
Grothendieck coverageの定義は、次の条件を含意する。
- S∈J(a)と、任意のf∈SについてRf∈J(dom(f))が与えられたとき、sieve {fg∣f∈S and g∈Rf}はJ(a)の要素となる。
証明
transitivity公理より、「任意のh∈Sについてh∗({fg∣f∈S and g∈Rf})∈J(dom(h))」を示せばよい。ここで、Qh=defh∗({fg∣f∈S and g∈Rf})と置くと、
Qh={g′∣cod(g′)=dom(h) and hg′∈{fg∣f∈S and g∈Rf}}⊇Rh となる。しかし、前段落の議論により、Rh⊆QhはQh∈J(dom(h))を含意する。
定義 (景)
景(site)とは、U-smallな圏Cと、C上のGrothendieck coverage Jの組(C,J)である。元S∈J(a)をcovering sieveと呼び、Sがaを(J-)coverすると言う。
また、射f:b→aについて、a上のsieve Sがfをcoverするとは、f∗(S)がbをcoverすることである。したがって、「Sがaをcoverする」と「Sがidaをcoverする」は論理的同値になる。このように射を用いることで、Grothendieck coverageの公理を書き直すことができる。
- Sがsieveでf∈Sならば、Sはfをcoverする。
- sieve Sがf:b→aをcoverするならば、任意の対象cとg:c→bについて、Sはfgをcoverする。
- sieve Sがf:b→aをcoverし、Rが任意のh∈Sをcoverするとき、Rはfをcoverする。
これらの公理からは、恒等射の場合を考えることで元々の公理を得られる。逆に、元々の公理から「射を用いた公理」を得るには、それぞれ以下のようにすればよい。
- sieve Sがfを含むとき、f∗(S)はidを含むのでmaximal sieveである。したがって、f∗(S)はdom(f)をcoverする。
- sieve Sがf:b→aをcoverするとき、射g:c→bについて、g∗(f∗(S))はcをcoverする。したがって、Sはfgをcoverする。
- sieve Sがf:b→aをcoverし、Rが任意のh∈Sをcoverするとする。つまり、f∗(S)∈J(b)かつ、任意のh∈Sについてh∗(R)∈J(dom(h))とする。任意のh′∈f∗(S)について、h′∗(f∗(R))∈J(dom(h′))となるだろうか?ここで、fh′∈Sなので、(fh′)∗(R)∈J(dom(h′))となる。
命題
- 2つのsieve R,Sがaをcoverするならば、sieve R∩Sもaをcoverする。
- 2つのsieve R,Sがf:b→aをcoverするならば、sieve R∩Sもfをcoverする。
証明
- 任意の(f:b→a)∈Rについて、
f∗(R∩S)={g∣cod(g)=b and fg∈R∩S}={g∣cod(g)=b and fg∈S}=f∗(S)∈J(b)
となり、transitivity公理より、R∩S∈J(a)となる。
- (1)より、f∗(R),f∗(S)がbをcoverするとき、sieve f∗(R)∩f∗(S)はbをcoverする。ここで、f∗(R)∩f∗(S)=f∗(R∩S)が成り立つので、f∗(R∩S)はbをcoverする。
Basis
定義(Basis)
圏Cがすべての引き戻しを持つとする。C上のbasisとは、Cの各対象aに「aへの射の族の集まりK(a)」を与える写像Kであって、以下の条件を満たすものである。
- 任意の同型射f:a′→aについて、{f}∈K(a)となる。
- {fi:ai→a∣i∈I}∈K(a)ならば、任意の射g:b→aについて、{π′:ai×ab→b∣i∈I}∈K(b)となる。ここで各i∈Iについて、π′:ai×ab→bは次の引き戻し図式の射影である。
- {fi:ai→a∣i∈I}∈K(a)かつ、各i∈Iについて{gi,j:bi,j→ai∣j∈Ii}∈K(ai)ならば、{fi∘gi,j∣i∈I,j∈Ii}∈K(a)が成り立つ。
組(C,K)のことも景(site)と呼ぶ。K(a)の要素を、covering familyあるいはcoverと呼ぶ。
C上のbasis Kが与えられたとき、Grothendieck coverage Jを次のように与える。
J(a)=def{S sieve on a∣∃R∈K(a). R⊆S}
このように定義されたJは実際にGrothendieck coverageになる:
- maximal sieveがJ(a)の要素であることを示す。任意の対象aについて、恒等射ida:a→aは同型射である。したがって、{ida}∈K(a)となり、さらにmaximal sieve taはその上位集合なので、ta∈J(a)となる。
- Stability公理を示す。射h:b→aとcovering sieve S∈J(a)が与えられたとする。Jの定義により、何らかのR∈K(a)が存在して、R⊆Sとなる。R={fi:ai→a∣i∈I}と置くと、{π′:ai×ab→b∣i∈I}はK(b)の要素となる。しかし、各fiはsieve Sの要素でもあるので、次の図式における射fiπ=gπ′もまたSの要素になる。
したがって、任意のi∈Iについて、π′:ai×ab→bはsieve g∗(S)の要素になる。以上より、{π′:ai×ab→b∣i∈I}⊆g∗(S)が成り立つので、g∗(S)∈J(b)となる。
- Transitivity公理を示す。Covering sieve S∈J(a)と、a上のsieve Rが与えられたとする。さらに、任意のh∈Sについてh∗(R)∈J(dom(h))が成り立つとする。Jの定義により、「あるS′∈K(a)が存在してS′⊆S」と「任意のh∈Sについて、Rh′∈K(dom(h))が存在してRh′⊆h∗(R)」が成り立つ。S′を{fi:ai→a∣i∈I}、Rh′を{gh,j:bh,j→dom(h)∣j∈Ih}と置く。各fi∈S′はSの要素でもあるので、{fi∘gfi,j∣i∈I,j∈Ifi}∈K(a)となる。任意のi∈Iとj∈Ifiについて、gfi,j∈Rfi′⊆fi∗(R)より、fi∘gfi,j∈Rが成り立つ。したがって{fi∘gfi,j∣i∈I,j∈Ifi}⊆Rとなり、Jの定義よりR∈J(a)となる。
逆に、Grothendieck coverage Jが与えられたとき、basis Kを与えることができる。対象aと、aへの射の族Rについて、「Rによって生成されるsieveR†」を次のように定義する。
R†=def{fg∣f∈R and cod(g)=dom(f)}
これを用いて、basis Kを次のように定義する。
K(a)=def{R∣R†∈J(a)}
上記の命題のときのように、covering family同士のrefinementを考えることができる。
定義(Refinement)
aを対象とする。aへの射の族{fi:ai→a∣i∈I}が{gj:bj→a∣j∈J}をrefineするとは、任意のfiが何らかのgjで分解されること、つまり、ある射hi:ai→bjが存在して、fi=gjhiとなることである。
命題
任意の2つのcovering family R,P∈K(a)について、共通のrefinmentがK(a)の要素として存在する。
証明
Basis KからGrothendieck coverage Jを生成する。すると、R,P∈K(a)について、R⊆R†とP⊆P†が成り立つので、R†,P†∈J(a)となる。したがって、命題(1)より、R†∩P†∈J(a)となるが、Jの定義より、あるT∈K(a)が存在して、T⊆R†∩P†となる。あとは、TがRとPをrefineすることを示せばよいが、R†が明らかにRをrefineし、P†についても同様なので、TがRとPのrefinementになる。
景の例
任意のU-smallな圏Cについて、maximal sieveのみからなるGrothendieck coverageを与えることができる。このcoverageをtrivial coverageと呼ぶ。
景上の層
U-smallな圏Cとその上のGrothendieck coverage Jが与えられたとする。前層F:Cop→Setとcovering sieve S∈J(a)について、自然変換S⇒Fを、SについてのFの元のmatching family (matching family for S of elements of F)と呼ぶ。
定義(景上の層)
前層F:Cop→Setが景(C,J)上の層であるとは、任意の対象aとcovering sieve S∈J(a)について、包含自然変換S↪yaによって導出される写像θ:Hom(ya,F)→Hom(S,F)が全単射であることを言う。
Hom(S,F)はmatching familyの集合を表し、Hom(ya,F)は米田の補題により、F(a)を表す。上記の写像θのmatching family αにおけるfiberの要素のことを、αのamalgamationと呼ぶ。つまり(C,J)上の層とは、任意の対象の、任意のcovering sieveの任意のmatching familyが一意のamalgamationを持つような前層のことである。
層の定義を、図式を用いて書き直すこともできる。前層Fが層であるのは、任意の対象aと任意のcovering sieve Sについて、次の図式がSetにおけるイコライザになるとき、かつそのときに限る。
ただし、e,p,aは次のように定義される。
e(x)p({xf}f)a({xf}f)=def{x↾f}f=def{xfg}f,g=def{xf↾g}f,g
圏Cがすべての引き戻しを持つとする。C上のbasis Kが与えられたとき、Kから生成されたGrothendieck coverage Jについての層は、Kのみを用いて表すことができる。
命題
前層F:Cop→SetがJについての層になるのは、任意の対象aとcovering family {fi:ai→a∣i∈I}∈K(a)について、次の図式がSetにおけるイコライザになるとき、かつそのときに限る。
ただし、ai×aajはfi:ai→aとfj:aj→aの引き戻し
であり、e,p,qは次のように定義される。
e(x)p({xi}i∈I)q({xi}i∈I)=def{x↾fi}i∈I=def{xi↾π}i,j∈I=def{xj↾π′}i,j∈I
証明
-
(⇐) 任意の対象aとcover S∈J(a)が与えられたとする。Jの定義により、あるR∈K(a)が存在して、R⊆Sとなる。Matching family α∈Hom(S,F)が与えられたとする。Rを{fi:ai→a∣i∈I}と置くと、{αai(fi)}i∈Iは∏i∈IFaiの要素となる。αの自然性により、射π:ai×aaj→aiについて以下の図式が可換になる。
この可換図式により、
{αai(fi)↾π}i,j∈I={α(fi∘π)}i,j∈I
が成り立ち、同様に
{αaj(fj)↾π′}i,j∈I={α(fj∘π′)}i,j∈I
も成り立つ。しかし、ai×aajは引き戻しなので、
fi∘π=fj∘π′
が成り立ち、したがって、
{αai(fi)↾π}i,j∈I={αaj(fj)↾π′}i,j∈I
となる。つまり、{αai(fi)}i∈I∈{X∈∏i∈IFai∣p(X)=q(X)}となるが、イコライザは同型を除いて一意なので、
e(x)={x↾fi}i∈I={αai(fi)}i∈I(by definition)
となる一意のx∈Faが存在する。
後は、このxが任意のg∈Sについてx↾g=α(g)となることを示せばよい。まず、Rのg:b→aに沿った引き戻しを取る。つまり、{π′:ai×ab→b∣i∈I}について考えると、これはbasisのstability公理により、K(b)の要素になる。
任意のi∈Iについて、以下の等式が成り立つ。(π′は射ai×ab→bである。)
x↾g↾π′=x↾g∘π′=x↾fi∘π=x↾fi↾π=αai(fi)↾π=α(fi∘π)=α(g∘π′)=αb(g)↾π′(by functoriality)(by the commutative diagram)(by functoriality)(by fi∈R)(by naturality)(by the commutative diagram)(by naturality)
ここで、{π′:ai×ab→b∣i∈I}はcovering familyであり、{x↾g↾π′}i∈Iは∏i∈IF(ai×ab)の要素であるので、上記のイコライザ図式を適用できる。eが(正則)モノであるので、x↾g=αb(g)となる。
-
(⇒) Fが層であるとする。任意の対象aとcovering family R={fi:ai→a∣i∈I}∈K(a)が与えられたとする。圏Setは完備なので、pとqのイコライザE={X∈∏i∈IFai∣pX=qX}が存在する。
任意の{xi}i∈I∈Eについて、R†∈J(a)についてのmatching family αを
αb(g:b→a)=defxi↾h(where g=fi∘h for some i and h:b→ai)
と定義する。この定義は、iやhの選択によらない:もしjとk:b→ajが存在して、g=fj∘kと分解されるならば、引き戻しai×aajの普遍性により、h=π∘lかつk=π′∘lとなる一意の射lが存在する。
したがって、
xi↾h=xi↾π∘l=xi↾π↾l=xj↾π′↾l=xj↾π′∘l=xj↾k
となる。
Fが層であるので、「任意のf∈R†についてα(f)=x↾f」となるような一意のx∈Faが存在する。特に、任意のi∈Iについて、α(fi)=xi=x↾fiとなる。したがって、xはe:Fa→Eの{xi}i∈Iにおけるfiberの元になる。次に、このfiberがsingletonであることを示す。y∈Faが存在して、任意のi∈Iについてy↾fi=xiが成り立つとする。任意のg∈R†について、
y↾g=y↾fi∘h=y↾fi↾h=xi↾h=x↾fi↾h=x↾fi∘h=x↾g=α(g)(for some i and h:dom(g)→ai)
が成り立つ。したがって、yもmatching family αのamalgamationになるが、層の定義よりこれは一意的でなければならない。よって、y=xとなる。以上により、射e:Fa→Eが同型射になるので、当命題の図式がイコライザになることが分かる。